誰もいない静寂の街を切り取る山下裕之氏の写真展
入り口に掲げられたポスターには巨大な螺旋の建物が。大きな工場? それとも外国?としばらく眺めていたら、写真家の山下さんが声をかけてくれました。もちろん、インタビュー開始です!
—–山下さん、さっそくですが、このポスターの場所はどこでしょうか?
これ、デパートの駐車場なんです。真上から見るとこんな風景に見えるんですよ。実は、建物を撮る写真家の間ではちょっと有名な場所なんです。
—–行ったことのある駐車場ですが、こんな景色だったとは! まったく気がつきませんでした。山下さんの作品は都市でありながら、人が写っていない。なんだか見慣れた街が違う都市に見えます。
そうですね。最初のうちは、人がいないほうが気を使わず、自由に撮影できると思って撮っていたんですけれど、そのうち、無人の街のおもしろさに気がつきました。
—–誰もいない街の魅力は何でしょうか?
ちょっと幼稚な考えかもしれませんが、一人で撮影していると「誰もいなくなったのではないか?」とふと頭によぎることがあります。なぜか誰もいない街というのはテンションあがるのです。特にお正月など東京がガランとします。そんな非日常の世界がおもしろいのかもしれませんね。なんとなく、客観的に東京を見ているのかもしれません。
—–何時ごろに撮影しているんですか?
夏ならば、夜遅くまで人が歩いていますし、朝も早いのです。ですから、3時から4時くらいの間だけですね。冬は朝5時でも真っ暗ですから、人がいません。もちろん、人がいないからといって、道路の飛び出して撮影してはないんですよ。ちゃんと交通ルールは守っています。
—–一人で真夜中、カメラを構えている人がいる…それも不思議な光景です。
ええ、よく「何しているんですか?」と職質されました(笑)。そりゃ、怪しいでしょうね。最近では、警察官の方が「ああ、またあのカメラのおじさんか」と認識してくれたのか、近づいてこなくなりました。でも、誰もいないと思っていても、警察官の方はしっかり働いてくれている。日本は安全な国ですね。
—–すっかり夜の住人ですね。昼間に撮影されることはあるんでしょうか?(笑)
ははは。普段はビルの広告などの仕事が多いんです。もちろん、広告ですから明るい街の様子であったり、ビルの夜景であったりと賑やかで美しい写真を撮影します。だから逆に誰もいない街が撮りたくなかったのかも(笑) 9月8日まで開催していますので、ぜひ、見にきてください。
■ひとこと
「会期中はできるだけ受付にいますから気軽に声をかけてください」と気さくな山下さん。新宿や銀座、夜の都市の表情が山下さんならではの感性で切り取られています。29,30日にはワークショップも開催されます(すでに締め切り)。ビル好きであってもなくても、ドラマチックな作品を見に訪れてみませんか?
■展示
作品名 アナザーワールド another world
場所 ヒルトピアアートスクエア(ヒルトン東京地下1階)
日時 8月20日(木)〜9月8日(火) 10:00〜19:00
※9月8日最終日は16:00まで
■プロフィール
写真家 山下 裕之
1970年生まれ、熊本県育ち。東京の建設会社を退社後、1996年より一年半、オーストラリア大陸をオートバイで旅行。帰国後、写真家の相原正明氏に師事、アシスタントを経て、フリーとなる。
私達が夜眠りに着く頃、街の風景は別の顔を見せはじめます。
昼間の雑踏とした光景とは逆に、夜の静寂さをドラマチックに切り撮り、無機質で機能美な世界観を表現した作品を展示します。